【書名】認識論を社会化する
【著者】伊勢田哲治
【刊行】2004年7月10日
【出版】名古屋大学出版会,名古屋
【URL 】http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN4-8158-0489-3.html
【頁数】vi+331+25 pp.
【定価】5,500円(本体価格)
【ISBN】4-8158-0489-3


【メモ】※Copyright 2004 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

本書は,「社会認識論」に基づく科学論の本です.これだけ言えばEVOLVE / TAXA は読者のほとんどは放り出すにちがいない.しかし,内容的には,このメーリングリストの会員がもっとも読者としてふさわしい潜在的資格を備えていると私は思います.David Hull の現代生物体系学史本(Hull 1988, Science as a Process. U. Chicago Pr.)で用いられた「科学の理論分析」の手法は,生物体系学における研究者グループの動態を描写したたいへんユニークな本でした.体系学者自身からはいろいろと批判されてきたのですが,Hullの手法はもっと使われてよいと思っていました.

しかし,Hullの本のあとにはなかなかそういう研究にはめぐり合えませんでした.ところが,今回出版された伊勢田本は,Hullを中心手する科学研究者たちの手法を社会学の理論変遷に適用しようとしています.理論(研究者ディーム)間の競り合いによる科学の変遷,概念的包括適応度による仮説の浸透など,生物進化学とのアナロジーを突き詰めた論議が概観され,その最前線がどこまで広げられるのかが論議されています.

著者自身は,認識論や科学論の専門家を想定読者層とみなして書いているように感じられますが,一読したかぎり,この本の最適な読者はほかならない生物体系学者あるいは生物進化学者であり,その知的バックグラウンドがないとこの本の内容は咀嚼できないのではないかと私は思いました.その意味では,本書のタイトルの付け方は販売戦略の明らかなまちがいであり,日本語で書かれているにもかかわらず,読むべき読者層にいまだ届いていないのではないかと推測します.

内容的にはたいへん刺激的で,科学哲学に関心のある人は手に取ってけっして損はしないと思います.少なくとも,タイトルだけ見て自分には関係ないやと引いてはいけない.そういう本です.

三中信宏(4/November/2004)

【目次】
序論 1
 1.認識論の社会化の流れ 1
 2.社会認識論的研究の具体例 6
 3.本書の構成 20

第I部 社会認識論のさまざまな形

第1章:科学知識社会学 26
 1.科学知識社会学の見取り図 26
 2.社会的構成の二つの種類 28
 3.社会的原因アプローチ 31
 4.社会的過程アプローチ 37
 5.二つの「社会」概念の区別とSSKをめぐる論争 42
 6.「もっと強いプログラム」 45
 7.「もっと強いプログラム」の哲学的含意 51

第2章:記述的社会認識論 54
 1.科学の進化論的分析 55
 2.サッピの「認証プロセス」に関する分析 77
 3.まとめ 96

第3章:規範的社会認識論 100
 1.自然化された認識論から社会化された認識論へ 100
 2.ゴールドマンの自然化された認識論 103
 3.ゴールドマンの社会認識学 127
 4.まとめ 141

第II部 事例研究 ―― 社会学の歴史から

第4章:戦後アメリカ社会学の理論的・方法論的多様化 146
 1.社会学における実証主義と機能主義 149
 2.構造機能主義の支配 151
 3.実証主義の支配 154
 4.構造機能主義の衰退 160
 5.方法論の多様化 165

第5章:社会学者による自己評価の試み 177
 1.グールドナーの分析 178
 2.フリードリクスの『社会学の社会学』 184
 3.リッツァーの三パラダイム論 191
 4.その他の分析 197
 5.社会学の多様性に関する自己評価 200
 6.SSKからの視点 213

第6章:社会学の多様化の哲学的分析 217
 1.ハルの理論の記述的含意 218
 2.ハルの理論の規範的含意 223
 3.サッピの分析の適用 227
 4.ゴールドマンの分析と社会学の多様性 230
 5.社会学の多様性のよりよいあり方への提言 237
 6.社会学以外の分野への適用 250

第III部 よりよい社会認識論へむけて

第7章:メタ認識論的分析 256
 1.二つのアプローチの一般的性格 257
 2.規範的アプローチへの記述主義からの批判 259
 3.記述的アプローチに対する規範主義的批判 263
 4.社会認識論の方法としての広い反照的均衡 282
 5.メタ認識論的概念と社会学の多様化 289
 6.まとめ 293

結論 295

補章:KKテーゼと懐疑主義 301
 1.KKテーゼとその問題点 302
 2.懐疑主義に対するサッピの批判 307
 3.懐疑的議論のもう一つの解釈 311
 4.伝統的懐疑主義とKKテーゼ ―― ヒュームの懐疑主義を例にとる 313
 5.PEHKKテーゼと認識論の運命 320
 6.まとめ 323

あとがき 327
参照文献 [7-25]
索引 [1-6]