メーリングリストやネット掲示板の管理運営者は,ネット上でのトラブルに対処する“秘伝のワザ”を各自が経験的に培ってきていると思うのですが,なかなかオモテには出ないそうです.しかし,「困ったちゃん」に悩んだ経験のある人は少なくないはず.事例と対処の経験談はどんどん周囲に公開しましょうね.そういう悩めるネット管理者の「虎の巻」として本書は役に立ちます
本書は,ネットワークがライフスタイルに及ぼす影響だけではなく、その逆のライフスタイルがネットワークに与える効果(p.iii)を論じます。最初の2章は、メディア産業の観点から見たネットワーク論です。続く第3章では、コミュニケーションの「場」としての電子ネットワークを「形成し維持する原理」(p.78)すなわち何がネットワークを形成する「求心力」(p.78)となっているのかという問題提起です。
著者の見解は、電子コミュニティのスケール効果(pp.82-83)もさることながら、結局は「場」を支える人間(とくに主催者)が求心力の本体であると結論します:「結局のところ、テーマないしは個人が求心力とならないかぎり、〈場〉は維持できないのである」(p.87)。第4章では、ネットワーク・コミュニティに特有の現象−匿名性に基づく騙し,ROMによる発言・聴取の非対称性に由来する監視状態,発言権力者をめぐる覇権争い,ネティケット論議,フレイミングなど−を個別事例的に論じます。こんなくだりも:
「参加者の一部だけが活発にメッセージを発し、圧倒的多数はそれを読むだけという状態はめずらしくない。むしろ、そうでなければ〈場〉は物理的に成り立たない(p.149)。」
「利用者はメッセージを読むために〈場〉へと集まっている以上、メッセージを活発に発信する人がその〈場〉の覇権を握るのは当然のことである(p.150)。」
確かにそうだ! 本章は私にも思い当たる事例が数多く紹介されています。続く第5章では、第4章で挙げられたような事例が生じる原因をコミュニケーション心理の観点から分析します。電子コミュニティでは「実時間が共有されないこと」(pp.196ff.)/「自意識の膨張」(pp.203ff.)/「距離感覚の錯覚」(pp.212ff.)/「人格の断片化」(p.218)などいくつもの要因が指摘されています。さらに本章では、こういうコミュニケーション論を逆手に取った対処の仕方がいくつか提示されており、私にはたいへん参考になりました。
MLのような電子コミュニティの参加者にとっては、きっと参考になる本だと私は思いました。