粕谷英一 1998年03月15日初版第1刷発行
『生物学を学ぶ人のための統計の話〜きみにも出せる有意差〜』
文一総合出版,東京,199pp.
ISBN 4-8299-2123-4 定価2,400円+税
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この【ピンク本】を読まずにすますことはできない

 「まえがき」に書かれているように、本書は統計学の「理屈」をまじめに解説し
た本です。統計を「わかった気になっている」読者は本書の著者にずばっと折伏さ
れるでしょう。一方で、統計学というものに「皮膚感覚的恐怖」を感じている多く
の研究者は、本書の著者の「憑きもの落し」の冴えに目を見張るでしょう−<統計
の理屈に不思議なことなど何もないのだ>。私自身、本書を読んで「ああ、そうい
うことだったのか」と深く納得できた点がいくつもありました。
 統計的推論の極意を伝える第1章、対比較を説明した第3章、そして回帰の陥穽
を警告した第7章を私は特に楽しみました。本書は「理屈」の本であるにもかかわ
らず、その「数学」はきわめて初等的です。パラメトリック統計学の章で出現する
いくつかの微分演算を除けば、数式の乱射を死因とする読者死亡率の期待値はずい
ぶん低いのではないでしょうか。ただし、「数式」が少ないかわりに、しつこいく
らい「数値」は出てきます。とりわけ、ノンパラメトリック統計手法のボックス解
説では「げ」と声が出るほど数値例が並びます。しかし、それは命に関わることで
はありません。むしろ、そういう「しつこさ」に慣れてしまえば、統計学の「理
屈」が確実に理解できることが実感できます。統計学的な「ものの考え方」を理解
する上で、本書は強力な助っ人になると私は感じました。
 レギュラー出演する「浦井君・村田君」をはじめ、なみいる学生・院生どもの超
ゼツな質問の連発をビシビシはねかえすわれらが「飯山助手」は、はたしてこの統
計消耗戦を生き残れたのか? まったく出演しないのに、イラストだけはしっかり
描かれている「五十嵐教授」は、いったい誰なんだ? なぜ「助教授」はいないの
か?−などなど本書の台本をめぐって想像はたくましくなります。
 137ページの回帰に関する数式展開は記法が不正確です。また、索引でのミス
スペルが散見されました。なお、本書の「イラストレーター女史」はすご腕! 各
せりふの冒頭につくミニアイコンの表情が状況に応じて、平静顔・うるうる顔・脳
死顔などと、ちゃんと変化しているじゃない! 精読したい人は各キャラクターが
何通りの表情を見せるかを数えてみてください。

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謝辞
まえがき
第1章 検定って、なに?−統計的推論
     Mann-WhitneyのU検定とWilcoxonの検定
番外編 記述統計−Σに強くなる
第2章 正規分布
第3章 対応と独立
     Wilcoxonの符号化順位検定
第4章 頻度のデータ−%に直すな
     カイ2乗検定
第5章 分散分析のしくみ
第6章 最尤法
第7章 回帰の悪い夢
第8章 無作為化検定
第9章 多重比較と多重検定
付録 君にもできるごまかし
   統計の本
   索引
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