【書名】階級としての動物:ヴィクトリア時代の英国人と動物たち
【著者】ハリエット・リトヴォ著
【訳者】三好みゆき
【刊行】2001年09月10日
【出版】国文社,東京
【頁数】409+ix pp.
【価格】4000円(本体価格)
【ISBN】4-7720-0485-8

【書評】※Copyright 2001 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

「階級としての動物」と言われてもピンとこないが,副題を見れば内容の予想はつく.18〜19世紀のイギリスにおける「動物と人間との関わり」を社会文化史の観点から切り込んだ著作である.ただし,当時のイギリス社会での「通俗分類体系」に関する言及が随所にあり,その意味では「分類学史」としての側面も合わせもつ.一読した感じでは,キース・トマスのイギリスにおける当時の「自然観・生物観」を論じた本:

【書名】人間と自然界:近代イギリスにおける自然観の変遷
【著者】キース・トマス
【訳者】山内昶(監訳)
【刊行】1989年08月01日
【出版】法政大学出版局(叢書ウニヴェルタシス272)
【頁数】viii+470+139 pp.
【価格】3,800円(本体価格)
【ISBN】4-588-00272-4

と重複する部分がかなりあるようだ.

本書の構成テーマは,家畜(牛と豚:第1章)・ペット(犬と猫:第2章)・動物虐待(第3章)・狂犬病(第4章)・狩猟(第5章)・動物園(第6章)である.各章のテーマは一見ばらばらのようでいて,幾重にもつながっている.序章では本書の目標を設定する:

動物が(もっと正確に言うなら,人間ともっとも頻繁に関わりあい,人間がもっとも感情移入しやすかった哺乳動物が)十九世紀イングランドの文化のなかで果たしていた役割を,時代を適宜遡りながら探ってゆく.(pp.12-13)

動物と人間との関わりは日常・非日常のさまざまな場面で生じ得たのだが,「この多様性にはいくつかの構造がある.十九世紀イングランドの人間と動物とのあらゆる関係を規定するただひとつのパターンというものはなかったにせよ,この関係は無原則なものでも混沌としたものでもなかった」(p.13).では,どのような関係構造がそこにあったのか?

著者は,当時の学術書や論文ばかりでなく,通俗記事やパンフレット,あるいは公文書の類いまで総動員して(各ページにある膨大な脚注は圧巻),この「構造」の解明に向かう.全体を通して,著者の結論をまとめるならば,民俗分類(folk taxonomy)に基づく「レトリック」の構造−比喩・隠喩・換喩など−があるということである.

当時はやったドッグ・ショーとは結局動物にかこつけた飼い主たちの「換喩的な試み」(p.130)であったし,動物虐待をめぐっては「レトリックの戦場」(p.186)が現出し,狂犬病をめぐっては「隠喩としての病い」(p.243)−う,どこかで聞いた表現だぞ!−という色合いが強く,動物園にいるスター動物たちは異国征服の証しというレトリカルな意味合いを負わされていた(p.308)そうだ.

詳細にわたる記述を追っていくのは,時につらいものがあるが,たいへんおもしろい内容である.かつてまじめに行われていた「動物裁判」についても,同様の分析ができるだろうと思う.

三中信宏(25/October/2001)

【目次】
謝辞 3
序章 動物の性質 9
第1部 威信と血統 69
 第1章 牛の両腰肉男爵 71
 第2章 一流のペット 122
第2部 177
 第3章 同情のしかた 179
 第4章 犬に気をつけろ 238
第3部 289
 第5章 檻のなかのエキゾチックな動物 291
 第6章 狩猟のスリル 342
訳者あとがき 407
索引 [I-IX]