● 2016年10月8日(土)学会最終日はセントロの本の巨大テアトルへ足を伸ばす

◆午前4時半起床.夜明け前の最低気温は9度まで下がって,冷え込んでいる.初冬な感じ.今朝の朝食での会話.ベジタリアンだとブエノス・アイレス滞在はきつくないかと訊いたら,いやちゃんとうまい野菜を毎日食べてるとのこと.蛇の道は蛇なのか,はたまた「Life finds its own way」なのか.本日は学会最終日.

◆午前9時前,からりと青空.気温9度の冷たい空気.それでも半袖を着てしまう体温の高いワタクシ.では MACN へ向けて出発.学会会場までの道路沿いには八百屋や肉屋やスーパーが店開きしている.旅先でこういう “日々の暮らし” の一端を垣間見るのも海外出張の楽しみのひとつ.店先に並ぶ果物にもお国柄が.肉屋はもっとすごくて保冷棚のガラス越しにみっしりとお肉が詰め込まれているのが見えた.この国では一般家庭が毎日キロ単位で牛肉を買うそうなので,肉屋の側も毎日たくさんお肉を並べないととダメなんだろう.

◆午前9時過ぎ,MACN 着.冷たい北風いや南風がセンテナリオ公園を吹きわたる.屋台の設営が進んでいるけど,何かしら週末のイベントがあるのだろうか.学会最終日はさすがに会場の人口密度が低くなっている.生物地理学のセッションが終わり,ランチタイム.ホテル直帰の休憩時間.昨日の雷雨がウソだったような真っ青な夏空が広がっている.気温は13度だが日差しが暖かい.センテナリオ公園のまわりでは土曜のがらくた市が開催されていた,MACN のまわりにもずらりと屋台が出店している.いかにも南米らしい色合いのものもあれば,あやしげなモノのあって,いろいろ.

◆「国際会議学会発表ウラ心得」 —— 毎回,海外の学会に来るたびに経験しているのに,帰国すると忘れてしまうので書き留めておこう.

  1. 講演スライドは出国してからでもつくれる」.時間に余裕があるうちにスライドをつくるのはアタリマエのことかもしれないが,ワタクシの場合,どういうわけだか毎回それができずに “敵地” に乗り込んでからじたばたつくることがほとんどだ.タテマエ上はいけないことだがなんとかなる.
  2. 講演スライドには字や図をぎゅうぎゅう詰め込まない」.国際会議ではお作法的につくってはならない紙芝居(極小フォントと縮小図版)の事例を意外に多く目にする.日本語でも英語でも(他言語でも)会場のうしろからちゃんと読めるスライドを心がける.
  3. 講演原稿はつくらなくてもいいよ」.日本語でも英語でも講演原稿をつくって壇上で “読む” あるいは暗記したものを “吐く” というのは舞台裏が見え見えでつまんないのでやめましょう.スライドを見てその場で “噺す” ようにワタクシはする.
  4. 講演の発表練習はしない」.これはきっと語弊があるな.発表練習はスライドをつくっている最中に “心の中” で終わらせようということ.並べられたスライドに噺の内容を “焼き付けて” しまうと原稿もいらないし,練習の必要もない.
  5. 講演の発表練習をするとしたら」.もしすでに講演スライドができあがっていて心と時間の余裕があるなら,原稿なしでスライドを見ながら噺ができるかどうかをチェックする.スライド順を部分的に “無作為化” してなお噺がつながるようなら万全だ.
  6. 他の演者のパフォーマンスにあおられない」.講演の番が近づいてくると緊張感が高まるのはしかたない.英語を母国語とする発表者が次々にスマートな発表をすると不安感も嵩じてくる.しかし,いったん高座に上がれば自分の天下.パアっとやってしまえ.
  7. 読むんじゃないよ,噺すんだよ」.学会発表という高座はパフォーマンスなので,聴衆たちを楽しませないと.ジョークのスライドなんかいらない.それよりもちゃんと読めるスライドを見せるのが大切.
  8. 読むんじゃないよ,噺すんだよ(続)」.英語を母国語とする参加者が多数派の学会だと世界語としての英語の “変異” に気づかないが,Hennig Society みたいに非英語話者が多い学会だとどんな英語(みたいなもの)でも大丈夫なわけ.Poor English こそ国際会議の公用語だ.
  9. 読むんじゃないよ,噺すんだよ(続々)」.いったん高座に上がれば poor English で噺しましょう.スライドがちゃんと読めれば聴衆はわかって楽しんでくれるって.読めないスライドで原稿を棒読みするのはサイアク.
  10. 海外発表での “補助輪” を外す覚悟を」.講演に先立って発表原稿をつくって覚えたり読んだりするのは,要するに「補助輪付きの自転車」に乗るようなもの.確かにコケる心配はないし安心できるだろうけど,いつまでもそこから抜け出られない.
  11. 海外発表での “補助輪” を外す覚悟を(続)」.よく耳にするのは「壇上で英語が詰まってしまったら困るから」という弁解だが,ワタクシ的には “補助輪” をはずすのをとてもこわがる子どもの稚拙な言い訳に過ぎない気がしてならない.
  12. 海外発表での “補助輪” を外す覚悟を(続々)」.いったん “補助輪” のない学会発表をどこかで経験しないといつまでたっても脱却できないと思う.もちろん “補助輪”のない自転車の自由さとその楽しみも味わえない.さらば “補助輪”.
  13. 国際会議での “修羅場” を語れ」.海外での学会発表の “修羅場” は多くの経験者がいるだろうから,そういう経験談を周囲に語るようにすると共有されるだろう.
  14. 国際会議での “パラダイス” を語れ」.一方で “修羅場” があるなら他方には “パラダイス” だってあるだろう.海外の国際会議の楽しみを語る場があったっていいじゃない.
  15. エンジョイ!」.国内でも国外でも学会は楽しむものであって,苦しむものではない.せっかく多くの国から “同好の士” たちが集まっているんだから楽しまないのはもったいない.ホテルにこもりきりで講演準備するのではなく,学会会場に行って弾けよう.

—— 以上の内容は別途公開した:leeswijzer|note「国際会議学会発表ウラ心得」(2016年10月8日).

◆気持ちのいい青空が広がる気温15度の過ごしやすい午後.最後の講演がもうすぐ始まる.午後4時半,全日程終了.来年はUSA開催との予告.

◆本のテアトルへ —— せっかく「南米のパリ」ブエノス・アイレスにいるのに,ホテルと学会会場と “お肉” という「黄金の三角形」を連日繰り返すだけでは,もったいない.夕方,タクシーでレコレータ地区の〈El Ateneo Grand Splendid〉書店へ向かった.かつての劇場をそのまま転用した「世界で二番目に美しい」と称される巨大書店だ.ブエノス・アイレスは “パリ” にたとえるにしては街ナカのいたるところで中南米のどこの都市にも共通する “廃墟感” が漂う.それでも,中心部(Centro)に近くなるほど賑やかに華やいでいることは確か.そんなレコレータ地区の一角にある大きな建物がまるごと書店になっている.この〈El Ateneo Grand Splendid〉書店は Wikipedia の項目がすでに立つくらい世界的に有名なのだが,あくまでも新刊書店だ.古き時代の劇場そのままで,奥の旧舞台は喫茶室として営業している.天井画がすばらしい.ワタクシのようにカメラを構える観光客がとても多かった.

◆学会が終わったひとり打ち上げは,パレルモ地区でもいまもっともオサレなパレルモ・ソーホーにある〈La Cabrera〉というパリージャへ.ブエノス・アイレスでも人気店のひとつ.午後6時半に入店したらサービスタイムとのことで,代金を4割引にしてくれた(午後8時半以降の夜の部は通常価格).厚さ4センチの Bife de Chorizo 400グラム(レア)とマルベックのフルボトルが空っぽになって,たった455ペソ=3,094円.これはもう “犯罪” というしかない.誰か止めて〜.このお店もまた塩胡椒が控えめで,フライドポテトの付け合せはない.代わりに10種類ものピクルスやディップなどが添えられている.控えめなワタクシは厚さ4センチ(400グラム)を注文したが,ひとつ上のビッグサイズ(800グラム)の Bife de Chorizo だと厚さ8センチとのこと.驚異的.

◆明日は帰国日.といっても,三日かけて逆コースで日本にたどり着くという長旅だ.

◆本日の総歩数=10,492歩



Index: Hennig XXXV: Diario de a bordo en Buenos Aires, Argentina

  ← Index: Hennig XXXV: Diario de a bordo en Buenos Aires, Argentina