● 7月4日(水):カトリーナに溺れたマルディグラの復活

◇太平洋上の日付変更線を越えた.モンゴル世界地図の次は,昨日までいたニューオーリンズの大災害記録に移ろう:Douglas Brinkley『The Great Deluge : Hurricane Katrina, New Orleans, and the Mississippi Gulf Coast』(2006年刊行, William Morrow, ISBN:0-06-112423-0 [hbk]→目次).ニューオーリンズの街中を歩いていると,以前は店があったが,2005年夏の「Class 5」ハリケーン“Katrina”の襲来で,店を閉じてしまったと思しき店舗(跡)に出くわすことがある.ガイドブックにも「post-Katrina に開店しているかどうかは要チェック」という但し書きが付いたレストランも少なくない.

◇歴史学者 Brinkley がまとめた本書は,ニューオーリンズがなぜミシシッピー川の「零メートル地帯」に建設されることになったのか,なぜ「フランス語」なのか,これまでどのようなハリケーンの襲来を経験してきたのかなどルイジアナのこの地域のたどってきた歴史を詳細に振り返り,その文脈の上で迫り来る“Katrina”を日時を追って記述し,どのような要因が被害を増大させたのかを論じる.

もちろん,直撃したハリケーンが最大級の“perfect storm”だったという気象要因はもちろん大きい.しかし,この地域の立地条件,とくにミシシッピーの大湿地帯の中に建設された都市であるという条件が大きく効いている.ニューオーリンズは,オランダと同じく,防波堤でしっかり囲んで,しかもどんどん排水しなければ水没するという運命をもともと科せられていた.

しかし,それだけではない.著者は市当局や災害担当部署の危機認識と初期対応のまずさを繰り返し指摘する.貧富の差の大きなこの地域では,識字率が低くしかも移動手段をもたない階層(しかも老人の割合が高い)に対する避難命令とその実施が不可欠だったにもかかわらず,“Katrina”が上陸する直前まで有効な施策が取られなかったことが,堤防決壊による洪水の被害をさらに大きくしてしまったと述べる.

襲来数日前の前兆から始まり,体験者への取材を含めたディテールの積み上げ,「その日」にいたるまでの大きな流れの鳥瞰,そして複数の視点からの論究というスタイルは,たとえばサイモン・ウィンチェスター『クラカタウの大噴火』(早川書房)を想起させる.時間軸に沿ったストーリー展開は,この巨大ハリケーンの全体像をあらためて認識させてくれる.“Katrina”が通過した「後」に水位がじわじわと上昇してきたという時間差がこわい.

—— 厚さの割りには読みやすい本だったので,読書灯のもとで第4章まで150ページほど読み進んだ.

◇カトリーナのあとはサティにしよう:秋山邦晴『エリック・サティ覚え書(新装版)』(2005年11月20日刊行[初版1990年6月],青土社, ISBN:4-7917-6214-2→目次).260ページほど読み進む.中学生の頃からサティにのめり込んでいたという著者による詳細なサティ伝.楽譜と言葉との絡み合い,数々の「絵」,そして19世紀の世紀末をはさむ時期のパリでのもろもろのことなど.とても奇行が多かったわけね.サティは.

—— 作曲家ジョン・ケージが菌類研究者でもあり,アメリカ菌類学会の創立発起人のひとりだったとはぜんぜん知らなかった.※後で調べてみたら,確かにジョン・ケージは〈North American Mycological Association〉の学会賞を1964年に受賞している(→記録).また,the John Cage Mycology Collection という収集品が保管されているらしい.

◇ひたすら読むしかない機内ではものすごく読み進んでしまう.※映画なんぞ見たことないもんね.

◇日本時間の午後2時を過ぎ,機体は下降態勢に入った.成田空港の気温は摂氏21度,小雨だとアナウンスされる.21度! なんというちがいか.午後2時40分に第2ターミナルに着陸する.この7月1日から,帰国者は全員が「税関報告書」を提出しなければならないらしい(今までは該当者のみ).Café du Monde のチコリ入りコーヒー缶(360g)を四つ買ってきたことを正直に報告する.

◇空港の外に出ると,意外にも雨足が強く,風も吹いている.梅雨前線はまだ生き残っていたのか.シャトルバスでつくばセンターに着いたのは午後6時過ぎだった.曇りときどき小雨.夜になって,北風が強まってきた.

◇来年の〈Mardi Gras〉開催地はアルゼンチンの北端,Hennig Society の“ビン・ラディン”こと Pablo Goloboff の parsimony アルカイダ秘密基地がある都市 San Miguel de Tucumán だ.この数年というもの,Hennig Society Meeting は交通の便のよいたころではなく,ことさらに時間距離の遠い場所で開催されている気がする.ワルいことは遠くでコッソリやるにかぎる.※その割にはバーボン通りで大騒ぎしたのでは元も子もないが.

◇海外逃亡中まる1週間放置してしまったメールボックスをこわごわ開いてみたら,全メール数はほぼ「5,000」件で,スパムやエラー返送を除去したらたった「5%(250件弱)」しか残らなかった.対応が必要なのはその1/4程度くらいか.明日からはまた平日に戻るしかないな.Mardi Gras!

◇本日の総歩数=8101歩[うち「しっかり歩数」=2926歩/28分].全コース×|×.朝NA|昼NA|夜○.前回比=未計測/未計測.※日付変更線を越えたので朝と昼の食事については non-applicable ということで(喰ってないわけではない).


Cahier du Vieux Carré「目次」