● 2013年8月3日(土)ロストック街歩き,バート・ドーベランでモリーに乗る

◆午前5時起床.日本との時差は7時間.外はまだ暗い.日中は真夏日の酷暑(しかもエアコン無しがふつう)でも,明け方は涼気に包まれるドイツ北辺.ホテルの部屋の窓を全開.石畳の旧市街に連なる赤レンガの建物が昇る朝日に染まり始めた.昨日の長旅は日本から離れるにしたがってどんどんカオス度と不確定度が高まっていった.よくぞロストックまでたどり着けたものだ.

◆午前7時,さて,朝ごはんの時間だ.ホテルの朝食はドイツではスタンダードな Schinken(ハム)と Käse(チーズ)を中心にしたメニュー.バイキング(こっちに来るとリアルに実感)形式でいろいろと.ハムの旨さは筋金入り.どこで食べても平均値がとても高い.いつかはどこかで実現させたかった「朝からキャビアを」.まさか,ロストックのホテルの朝食で実現できるとは! プンパーニッケルにキャビアをたっぷり乗せて.ああ,ロストックに来てよかったあ.一時だけ Albert Szent-Györgyi になれたかも.

◆そういえば,昨日,混沌としたハンブルク中央駅のビアスタンドで,ヴルストをかじりながら,ヨーン本の訳し忘れていた献辞の訳文を編集部にメール送信した.農大のレポートも届いていた.世界中どこにいても┣┣" は必ずやってくる.

◆午前10時,ノイアー・マルクト広場の聖マリエン教会の時の鐘が鳴り響く.さて,そろそろ行動を開始しないと.でも,長旅の疲れがまだ抜けていない…….窓を全開にしてベッドに寝転がる快楽.空は真っ青に晴れわたり,涼風とともに道行く人たちのドイツ語がちぎれては流れ込んでくる室内.

◆ロストック街歩き —— 今日8月3日(土)は,夕方に Hennig Society の大会参加登録まではフリーなので,講演準備ができていないことはさておき,ロストックの旧市街(Altstadt)をうろうろ歩きまわることにする.ワタクシが滞在しているホテルは旧マルクト広場の近くにあり,ホテルを出ればいかにも昔風の石造りの建物だらけ.もちろん道は石畳が敷き詰められている.旧マルクト広場から新マルクト広場に向かう途中にあるのが,ロストックの入り口のシンボルである「シュタイン門(Steintor)」.りっぱやなあ.シュタイン門のある新マルクト広場はいたるところ装飾建築が立ち並ぶ観光スポット.今日は土曜なので輪をかけて人出が多いようだ.さらに中心部の繁華街に向かう.

ロストックでもっとも賑やかなクレペリナー通り(Kröpeliner Straße)の大学地区(Universitätsplatz).噴水の周りにオープンテラスの店がいくつもある.今回の学会会場であるロストック大学はこの広場に面している.噴水広場の角にあったカリヨン.ものすごく細かい音形がプログラムされていて.カリヨンの “トリル” は初めて聞いた.曲目はヘンデル「水上の音楽」などなど.ロストック大学は1419年に創設された北ドイツ屈指の古い大学.歓楽の巷クレペリナー通りを見下ろす豪華建築.ヨーロッパのこういう歴史のある大学の建物を見ると,日本の大学の造りとは「格がちがうなあ」と感じない訳にはいかない.クレペリナー通りの端っこにあるのは通りの由来となった「クレペリナー塔(Kröpeliner Tor)」.クレペリナー通りから一筋奥まったところにあるのがロストック最大の聖マリエン教会(St-Marien Kirche).声もなくただただ見上げるしかない.毎日の時の鐘はここから響いている.今日はロストック市街地をめぐるマラソン大会があるとのことで,新マルクト広場はマーケットが店開きしていた.果物いろいろ.奥では大量の肉が焼かれている.もちろんビールも.

◆モリーへの道 —— ロストック街歩きのあとは,蒸気機関車の乗り鉄&撮り鉄へ.ロストック中央駅から RE に乗って20分.果てしなく続く草原(Heide)を走る走るまた走る.北ドイツの原風景はこれだ.Bad Doberan 駅で下車.この小さな駅を有名にしているのは「モリー(Molli)」という名の狭軌の蒸気機関車.一世紀以上前からずっと走っているという.この駅からバルト海沿岸の Kühlungsborn West 駅まで40分かけてゆっくり走る.BGMはもちろん〈世界の車窓から〉.さあどうぞ.

蒸気機関車は小さめでも,モリーが牽引する客車は10輌もある.デッキをあがる.客車は完全なオープン.眺めがすばらしそうだ.車内はすべて木製.レトロなどという言葉では言い表せない時代物.今日は意外に乗客が少なかった.

13:36に Bad Doberan を発車.モリーは最初は石畳の街のどまんなかをゆっくりゆっくり走る.手を伸ばせば触れるほどの近さ.市街地を抜ければそこは再び草原地帯.バルト海が近づくにつれて,別荘地が見えてきた.このあたりは北ドイツのバカンス地らしい.おお,遠くに見えるのはバルト海だ.ヨットが浮かんでいる.このあたりはシーリゾート地でもある.モリーの終着駅は Kühlungsborn West.ここにはモリー博物館がある.さて,帰りの発車時刻だ.モリーの走る沿線のいたるところにキャンプ場が開設されていて,たくさんのテントが張られ,キャンピングカーが止まっている.日本人的には炎天の原っぱの中でキャンプするのはいささか違和感がある.しかし,こちらでは何もない草原でのキャンプは当たり前なのだろう.サイクリングしている人もたくさんいた.

—— Bad Doberan と Kühlungsborn West 間の往復運賃は12ユーロ.German Rail Pass とは別料金.

◆Hennig Society アイスブレーカー —— 街歩きと蒸気機関車のお楽しみのあとは,再びロストックに戻る.午後4時過ぎ,クレペリナー通りの噴水広場に面している大学の動物学研究所(Zoologisches Institut)へ.博物館が併設されている.ここの二階で参加登録をすませたあと,中庭での icebreaker party に向かう.午後4時過ぎの真っ昼間からすでに学会参加者が飲み始めているではないか.うん,これはもう飲むしかないな.ビール樽からどばどば注がれる注がれる注がれる.何も食べないうちに文字通りの “駆けつけ三杯” をしてしまった.

何度も来ている学会なので知り合いがとても多い.今回は北ドイツ開催ということで,ドイツ国内からの参加者はもちろん多いが,アメリカ,フランス,アルゼンチン,ブラジル,シンガポールと国際色豊か.日本からはいつものようにワタクシだけ.

そうこうするうちに,メインディッシュの豚の丸焼きが軽トラで運ばれてきた.お肉をスライスするおじさんは早くも闘志満々.懸命に肉切りナイフを研いでいる.まずは下半身から.うまそー.肉の匂いをかぎつけて撮りにやってきた Hennig Society のワルい人たち.肉切りおじさんがフルパワーで丸焼き豚を切り分けている.一切れが100〜150グラムはありそう.今度は上半身.切った端からものすごい勢いで消費されていく.ワタクシの一皿目は,皮付きのぱりぱりした部分を100グラムほど.あとはヴルストとブロート.二皿目は腿の中の方を150グラムほど.ガーリックオイルをトッピング.付け合せはトマトとキュウリ.最後の三皿目はフィレを200グラムほど.計500グラム近く豚肉を食べて,さすがにお腹がもういっぱいなんですけど(身から出た錆).

—— ビールと豚丸焼きの背徳レセプションを終え,噴水広場をあとにしたのは午後6時半だった.それでもまだまだ明るい.しかし,もう何も食べたくない……

◆朝から夜までよく歩きよく飲みよく食べた一日だった.そろそろ “本務” の遂行に邁進しなければならない.

◆本日の総歩数=16034歩



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