● 2011年7月29日(金): うっかり勘違いでゆったり過ごす日中

◆サンジョゼ・ド・リオプレトの夜明けは遅い —— 午前3時に起床.昨夜は,歓迎パーティも放棄して,約40時間ぶりにベッドの感触を満喫した.まる八時間ほど泥のように寝入っていたようだ.さすがに疲れていたにちがいない.ホテルの部屋の窓から見ると,雲間にきらめく星空の下に街の灯が広がっている.外はもちろん真っ暗で「冬」らしく気温は低い.真夜中なのに外の道路で話し声がしている.いまの季節,夜明けは遅いのだろうか.午前4時すぎ,遠くで列車の警笛が鳴っている.ホテル全体はまだ夢のなか.長時間のフライトを続けると,かえって「時差ボケ」を感じなくなるようだ.基本はずっと起きていないといけないし,寝られるときに泥のように寝るしかない.

午前6時,外はまだ真っ暗だが,先ほど空港に着陸するサンパウロからの一番機のエンジン音が聞こえた.午前6時半近くになってやっと東の空が明るくなってきた.遠景の市街地はまだ夜を引きずっている.外はかなり冷え込んでいるようで,体感的には10度そこそこしかないみたい.気温がずいぶん低い.日中との温度差が大きな土地柄なのだろう.今日も長い一日がはじまるが,長距離移動がないだけ気分的にはとても楽だ.朝食タイムは午前7時からだ.

◆昨夜はぜんぜん気づかなかったが,いま滞在している Hotel Nacional Plaza Inn は小高い丘の上にあるようだ.ホテルではポルトガル語が公用語で,英語はフロントだけしか通じない.しかし,コンシェルジュのひとりが大阪で七年間ほど働いていたことがあるらしく(奥さんは日本人とのこと),大阪弁が使えるのには驚いた.

◆ホテルの朝食で「羊羹」に予期せず遭遇する —— 中南米を旅するとめずらしい料理や食材に遭遇する機会が多い.もともと異文化の土地だから,食文化も多様なのは当然だが,単に聞くだけと実際に体験するのとはちがいがある.今朝,ホテルの朝食で出会ったのもそういう一品だった.写真の右下の方,真っ白なチーズの隣にある深みのある赤っぽいカタマリに注目.ハムやチーズと並べて置かれていたので,てっきり乳製品なんだろうと思っていたらおおちがい.ねっとりした食感と酸味を含んだ甘さは日本人的には「羊羹」以外の何物でもない.そう,「梅羊羹」として切って出したら,うっかりまちがう日本人はきっと少なくないだろう.

サンパウロでは朝食に「羊羹」が出るんだ!と思って部屋に戻ってから調べてみたら,どうやら「マルメラーダ(marmelada)」という食べ物らしいことがわかった.マルメラーダとはすなわちよくある「マーマレード(marmalade)」である.しかし,日本でもよく食べる英国風マーマレードは柑橘を煮詰めたジャムだ.一方,ブラジルのマルメラーダはその名の由来である果実の「マルメロ(marmelo)」を煮詰めてつくる食べ物で,ブラジル全土に広まっているとのこと(→Flavors of Brazil「Marmalade and Marmelada - What's the connection?」2010年3月30日).

イギリス風の柑橘マーマレードはブラジルでは「geleia」と呼ぶらしい.いずれにしても,このマルメラーダはパンなどに塗って食べるのではなく,そのまま切ってチーズ(ケージョ)とともに食べるのがご当地流なのだろう.

—— 中南米はどこの国に行っても生のくだものがとてもおいしくてうれしい.今朝もスイカやパパイヤが山のように積み上げられていた.

◆ああ勘違い —— 朝食後,大会会場になるはずのホールに行っても誰もいない.ありゃりゃと日程表を見なおしたところ,学会大会は今朝からではなく,明日からであることが判明したから(はい〜?)今日は,夕方4時から参加登録,そのあと午後6時から歓迎パーティということ.海外出張の申請を出したとき旅行会社が調べたところ,一日ずれるだけで航空券が数万円も高くなるとのことで一日早く現地に送り込まれた.そのことを当の本人がすっかり忘れていたというしだい.

◆[蒐書日誌]副島顕子『酒米ハンドブック』(2011年7月30日刊行,文一総合出版,東京,本体価格1,400円,ISBN:978-4-8299-1133-4 → 版元ページ).天下の利き酒師による必読書.版元ページでちらっと「立ち読み」できる./岩波書店『科学』編集部(編)『科学者の本棚』(2011年刊行予定,岩波書店,東京).『科学』誌で連載されている連載コラム「心にのこる一冊」をまとめたエッセイ集.ゲラが届いたので近いうちに刊行されるだろう.ワタクシも「「本で学ぶ」ことを学ぶ:G. Nelson and N. Platnick『生物体系学と生物地理学』」という一文を寄稿している.

◆〈Hennig XXX〉前哨戦の開幕 —— 日中のリオプレトはからからに晴れ上がり,乾いた熱風が吹いている.日本的にいえばとても「冬」の気候ではない.地元紙〈Diário da Região - São José do Rio Preto〉 を見ると,日中の最高気温は30度超とのこと.昼と夜では季節がすっかり入れ替わるみたいな気がする.それでも湿度が低いせいか汗をぜんぜんかかない.スケジュールの読み違いで時間ができてしまったので,日本から南米に送り込まれてきた┣┣" どもの相手をしたりする.講演準備はそのあとだ.午後,うつらうつらとシエスタしてしまった.真夏日の気温になる昼下りはエアコンをかけるのだが,ときどき部屋の電源がバチンと落ちることがある(すぐ復帰するけど).なんとなく南米的な電気事情.午後4時過ぎに参加登録をしてきた.午後から始まったと思しき会場設営はすでに終わり,講演会場とポスター会場ができていた.

真冬のプールサイドは大賑わい —— 午後6時から,今度こそ勘違いではないほんものの歓迎パーティがあるはずなのだが,定刻になかなか始まらないのは南米スタイルか.外は夕暮れて仄暗くなってきた.気温も「冬」らしく下がってほしいところだが,なかなかそうはいかない.午後6時半から開会の挨拶もなくいきなり始まったウェルカム・レセプションの会場は「真冬」のプールサイドだった.しかし,日没後も気温は夏日くらいありそうほど高く,服装の季節感おかまいなしのアメリカ人たちはTシャツ・短パン・ビーチサンダルという「正装」でぞろぞろ登場した.昨年のワイキキ大会との服装の有意差は検出できなかった.二時間ほど呑んでもパーティはまだまだ続く.ブラジルのフラッグ?ビールである「SKOL」 をかなりがばがば呑んでしまったので,ちょいと一休みに部屋に戻った.酔っ払ってプールに落ちては末代の恥なので.しかし,そのうちうっかり寝落ちしてしまったようだ.気持ち的には時差ボケもなく大丈夫と自分では思い込んでいるのだが,ときどきふっと意識が途切れることがある.からだはとっても正直だ.

—— 歓迎会自体はその後も延々と続き,そのうちバンドの生演奏が入って大音量ダンスパーティへとなだれ込んでいったようだ.地元の若い学生がたくさん参加しているらしく,これがご当地のデフォルト歓迎スタイルなのだろう.午後11時すぎまで音楽が響きわたっていた.いや,まだ続いているかな.いきなり不夜城か.

◆本日の総歩数=1955歩[うち「しっかり歩数」0歩/0分].



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