● 2011年7月28日(木): パリからサンパウロへの赤道横断飛行

◆真夜中のロワシー2 —— シャトレ・レアールの地下駅から再びRERのB3快速に乗って小雨のそぼ降るバリ中心部を離れ,終着駅のシャルル・ドゴール空港・第二ターミナルにたどり着いたのは午後9時半だった.ポンピドーセンターあたりではまだ明るかったが,郊外に向かってひた走っているうちにしだいに夕闇が降りてきた.CDG2の夜遅いフライトはあまりないようで,ターミナルの巨大な空間は人影も少なくがらがらだった.

◆サンパウロへの旅立ち(往路後半戦) —— 搭乗まであまり時間がなかったので,まずは入国審査をすませてゲートに向かう.指定されていたCDG2-Fホールの59番ゲート付近だけ人だかりがしている.午後10時40分からの搭乗だという.シートに座っていると睡魔がじわじわと取り憑いてくる実感がわく.つくばを出発してから通算してみれば,ほぼ「完全徹夜」をしているのと同じだから無理もない.最終目的地のホテルに着いたらまずは寝ることにしよう.

◆深夜の搭乗とフォアグラ化 —— 雨の中,午後11時前にやっと搭乗が始まった.成田からパリへの便と同じボーイング777の300型だ.離陸は23:35という遅い時刻なので,水平飛行までは照明が落とされた.パリ便の公用語がフランス語なら,このサンパウロ便はもちろんポルトガル語が公用.ついでにスペイン語も流されるが,英語ははなっからお呼びでない.

水平飛行になってすぐ夜食がしっかり出た.パリ便で夕方の軽食を食べ,夜はパリ市内でしっかり食べ,さらに夜食じゃ一晩三食になってしまう.これはもう完全にフォアグラ化の一途をたどっている.さすがに食べきれずに残してしまったのは無念だったが,ムリしてもしかたないしね.

サンパウロまでは約11時間のフライトだ,深夜便なので夜食後はすぐさま真っ暗になってしまった.ワタクシだけ読書灯を点けて日録をちくちくと書いたりしている.どこかで寝ておかないと.しかし,サンパウロ時間で日が変わったあたりからうつらうつらしていたようで,気がついたらサンパウロまであと二時間になっていた.多少とも睡眠できたので楽になったようだ.空路は大西洋をまたいでいたが,南米大陸に入ったあたりから乱気流が機体をゆすり始めた.アマゾン川流域の熱帯雨林からの上昇気流か?

◆機内読書は続く —— Julia Voss[Lori Lantz訳]『Darwins Pictures: Views of Evolutionary Theory, 1837-1874』(2010年刊行,Yale University Press, New Haven, x+340 pp.+ 16 color plates, ISBN:978-0-300-14174-0 [hbk] → 目次版元ページ情報)の第2章「Darwin's Diagrams: Images of the Discovery of Disorder 」をさらに読み進んでいる.

◆夜明け前のサンパウロ空港に着陸 —— 午前4時前から軽食が配られ始めた.計20数時間も機内に閉じ込められていると,機内食にそろそろ食傷してくる.帰りも同じくエールフランスだからさらに憂鬱になる.眼下に広大なサンパウロ市街地の灯火が見えてきた.午後5時に夜も明けやらぬサンパウロ郊外のグアルーリョス国際空港に着陸.空には弓のように細い三日月が浮かんでいた.入国審査やら荷物の受け取りがだらだらとあって,結局,空港コンコースに出られたのは午前7時近かった.十年以上前に来た時のイメージとはぜんぜん違っていて,ウツワそのものも大きく拡大していたし,空港内設備も見違えるほど整っていた.

◆朝日が昇ってしだいに青空が広がってきた.着陸時の外気温は15度だったが,その後は順調に暖かくなってきたようだ.ベストの服装がとても微妙で,地元の人たちの服装を見ても,コートを着込んでいる人もいれば,半袖のTシャツの人もいる.ワタクシ的には長袖だと冷蔵庫並みの機内ではよかったが,外に出るとちと暑すぎる.Baggage claim の両替所にて,中南米の通貨(アルゼンチン・ペソ,メキシコ・ペソ)とオーストラリア・ドルもついでにへアルに一括換金した.いったいどれくらい現金を使う機会と時間があるのかわからないが,ないよりはあった方がいいに決まっている.

◆日本では考えられないほどの持て余し時間 —— 午前7時という早い時間帯に空港についても身動きは取れない.サンパウロから最終目的地に向かう国内線はこことは別の南にあるコンゴーニャス空港に一時間ほどかけて移動し,しかも予約したフライトは午後3時過ぎだからだ.なんと九時間も空き時間があるとは.しかしじたばたしてもしかたがないので,とりあえず待合室にて MacBook Air の充電をしながらこの日録を書いている.無料の無線LANが使えるようなので(15分以内),あとで使わせてもらうことにしよう.機内でうつらうつらしたので,その続きの休息タイムが続く.背後ではポルトガル語の案内アナウンスがうるさく響きわたっている.

◆サンパウロ市街地を横断して —— 10:00発のコンゴーニャス空港行きのシャトルバス「Airport Bus Service」に乗り込んだ.片道R$33.00というのはけっして安くはないが,一時間はかかることを考えればリーズナブルなのだろう.空港ターミナルの館内はやや暑かったが,外に出たら風が涼しかった.しかし,気温はなんと25度超の「夏日」で,これで冬と強弁するのはかなりムリがありそう.ハデハデな落書きと廃墟が点在する市街地を通り抜けて,シャトルバスは予定通り一時間かけて空港間を送り届けてくれた.十年前に初めてサンパウロ市街地を通ったときに感じた「廃墟感」は今回も強く感じた.中南米の都市に行くとどこでも崩れたような街の風景が目に入る.

国内線に特化したコンゴーニャス空港は見たところ市街地に隣接する位置にあって,国際線離発着が中心のグアルーリョス空港よりも交通の便はよさそうだった.しかし,地元の利用者優先ということだろうか,ポルトガル語の占有率はさらに高くて,空港内の店でも英語は通じないと考えた方がよさそう.とりあえず,これから乗るTAMのチェックインとリコンファームを済ませ,重いスーツケースを預けてやっと身軽になれた.午後3時半のフライトまでたっぷりすぎる時間があるので,ロビーにある〈Black Coffee〉にて軽食でランチをば.上のとんがった揚げ物は coxinha de frango というチキンコロッケ.ほぐした鶏肉が入っていた.右の丸いのは torta de palmito .中身が最初はぜんぜんわからなかったのだが,どうやらヤシの若芽(palmito)のパイらしい.左下の餃子のような形のスナックはアルゼンチンでもよく食べた empanade de carne(肉入りエンパナーダ).

◆サンジョゼ・ド・リオプレトへの飛行(往路ゴール) —— 空調のよく効いた連絡通路でうつらうつらしてしまう.ポルトガル語の案内アナウンスや飛び交う会話に囲まれていると,地球のウラ側まで来たなあという隔絶感とまあなんとかなるもんだという安心感が交錯する.しかし,まだ往路ゴールには到達していない.最終ステップはTAM航空でサンパウロからサンジョゼ・ド・リオプレトにたどり着くこと.搭乗口に向かうと,広いホールにはすでにたくさんの乗客がひしめいていた.ブラジル国内路線へはここから連絡バスに乗って飛行機に向かうらしい.一時間あまりのち午後3時過ぎにアナウンスがあって,バスに乗る.TAM航空の中型ジェット機は定員が150名くらいだろうか.定刻に急角度で離陸して,ものの一時間もしないうちにまたしても急角度で降下した.そこがサンジョゼ・ド・リオプレト空港だった.

日没直前の西日がやけに眩しく,その逆光の中に「São José do Rio Preto」の看板が浮かび上がっていた.だだっ広い飛行場にはちいさなターミナルの建物しかない.サンパウロよりもさらに気温は高く,とても「冬」とは思えない.長袖を持ってきたのは失敗だったかも.飛行場脇のフェンスには出迎えの人たちが鈴なりになって到着便から降りてくる客たちに向かって大声で呼びかけていた.これは想像していた以上にローカルな空港なのかもしれない(サンパウロからのフライト便数もごく少なかった気がした).ミニサイズの回転台から自分のスーツケースを受け取ってから外に出ると,すでに Hennig XXX 事務局からの送迎車が着いていた.車に乗って約半時間,赤茶けた風景が広がる.

今日から泊まるところは〈Hotel Nacional Plaza Inn〉というホテルで,学会会場でもある.午後5時過ぎにチェックインしたときには,ほとんどぼろぼろだった.午後6時から歓迎パーティがあるということだったが,参加者がまだ集まってはいないということで,開催が遅れるかあるいは翌日以降に延期になる気配.とにかく,一刻も早く部屋に入りたいという欲求だけが亢進する.午後6時過ぎ,およそ40時間ぶりにベッドというものに潜り込んだ.シャワーも心地よかった.

—— 学会会場にたどり着くだけで一苦労.明日からは自分の公演準備を本格的にしないわけにはいかない.でも,明日は明日の風が吹くにちがいないので,今日のところはとにかくゆっくり寝ることにしよう.おやすみなさい.

◆本日の総歩数=6301歩[うち「しっかり歩数」0歩/0分].



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