● 7月21日(水):でもこの期に及んでじたばたするヤツがいたりする

◇複数の情報筋によると,日本はパーフェクト熱帯化してしまったようで,東京で39.5度,千葉は実に40度を越えたそうだ.ということは,内陸部(熊谷とか前橋)はもっと「超熱帯化」しているのではないかと危惧されるのですが.

―― いずれにせよ,帰りたくないな〜.このままこっちにいたいなあ〜.日中は「夏日」にはなるものの,日暮れると10度台だもんねー.ああ,パリの土になりたい(そこまで言う).

―― 日本の読者のみなさん,ここ数日の酷暑,まことにご愁傷さまでございます.

◇うわ,もう1件,帰りたくない事情が ―― 消えたはずの〈御用〉提灯がまたまた点灯.え,ポスターの“分類”をまちがったって? そりゃあ,しょせん分類ですもん,しかたないでしょう.へへへ.え,クレームが? あ,そりゃやばいっすねー.担当者は「みなし心筋梗塞」に倒れ,海外で短期静養中ということにしておいてくださいな.ごめんごめん.いちおう,タイトルとテーマを見て単系統群みたいなもんにはしておいたので,多系統だというクレームはないと思うのですがね.クレード内の順序づけはまったく失念していました.そういう連絡が事前にあったことも真っ白.ホント.

―― わわ,だからと言って,進化学会の大会要旨集[pdf版]サイトをメーリングリスト公開してしまったりしてる.殿,いいんですかあ? 出版日前なんですけど…….

―― この期に及んで“自爆”はよせ! メールしたからといって要求が通るわけではない.講演要旨集の内容に関する変更は

いっさい不可能です!

できないものはできないっ!

個別対策としては,当日会場で掲示する,あるいは事前に Qshinka に通知すること.ま,それでなんとかしましょうね.そこんとこよろしくっ.

―― いつまでもどこまでも〈御用〉は糸を引く.※腐っているわけではないが.

◇この期に及んでじたばたしなければならないヒトがもう一人ここに ―― おお,あと24時間を切っているではないか.やばー.

◇午後10時を過ぎてようやく夜らしい暗さになるが,モンジュ通りの街燈は一晩中煌々と明るい.午前3時というのに歩行者がいたりする.未明の時間帯だけが唯一静かになる.昨夜から涼風が吹き渡り,部屋を通り抜ける.気温は16〜17度くらいかな.ホテルの部屋にはエアコンが付いていないが,まったく苦にならないところが「別天地」の由縁か.

◇昨日までと比べると,今日は雲が多いようだ.雨が降らなければいいのだが.

◇花壇の写真なんぞを載せて,成仏でもする気かいっ,ま,今日は「講演日」ということで,後は野となれ山となれ(これが言いたかったのか).

◇午前中は,シンポジウム〈Phylogeny and coevolution of microbial symbioses〉だったが,諸般の事情でやむなく欠席(まだまだ伸びていたドロナワ...).午後,ぼくが講演することになっているシンポジウム〈Treatments and samplings〉になんとか間に合う.系統推定のデータ解析の上でのさまざまな大技小技が集結.Taxon-sampling と系統樹の精度との関係とか,この頃では total evidence法と言えば〈POY〉になるわけね.しかし,形質状態のダイレクト最適化をするためにこれだけパラメータが並ぶというのは,ほとんど最尤法と同レベルじゃないか.いずれにせよ,最強の〈AMNHクラスター〉でしか計算できないというのが最大のハードルだと思う(この手法が普及しない原因もそこ).

―― 中国語方言の系統関係を論じた講演があった.印欧語族だと tree model でなんとかなるが,中国の諸方言については入り乱れが激しいので network model の方が妥当だろうとのこと.演者はNeighborNetを用いてネットワークをつくっていた.あ,最近の流行かな,MrBayes による言語系統樹も登場.

―― ぼくのトークはシンポ最後の講演.BOGEN / BLANCE を用いたアオコ毒〈microcystin〉を分解するバクテリアの系統解析にからむ問題点をふたつ.ひとつは最節約系統樹を用いて,まだ解毒性の有無が判明していないバクテリアの探索をどのように進めるかという点.ブラインド・サーチではなく姉妹群関係に基づいてターゲットを絞り込むという方針を提案.もうひとつ,最節約祖先復元による解毒酵素機能の探索方針について話す(こちらはまだ序論だけ).ある段階の系統推定にもとづいて taxon sampling の範囲を合理的に拡張し,それに基づいてあらためて系統推定をした上で taxon sampling のさらなる拡張をする …… このサイクルを反復することで,データと系統樹はともに必然的に大きくなるので,それに対処できるソフトウェアが必要になると締めくくった.

―― Pablo Goloboff さんからコメント:「今年は“速度コンテスト”はしないのか?」 ごめん,それは来年のオスロまで待ってね.今回は実在する生物を対象として,こういう使い方をしているという事例紹介が主目的だったので.

―― もうひとつ,実に不本意ではあるのだが,初めてパワーポイントで講演してしまったっ.だって,「Win XP のパワーポイント」というのが大会公認の唯一のプレゼン機器なんだもん.“外圧”っていうやつか.いずれにせよ,日本にいたときはまったく講演準備する時間がなかったので,パリに来てから初めて PowerPoint をいじってみて,「ほほー,こうやってスライドを操作するのかー」とか「へへー,こうやってスタイルを決めるのかぁ」とか,実に新鮮な体験をさせていただきました.※日本に帰ったらまた使わなくなるだろうし,海外にいるときだけのプレゼン・ソフトと位置づけましょうか.

◇午後6時過ぎにシンポ終了.帰りのメトロ〈Michel-Ange Molitor〉にて Pierre Delaporte さんに会う.分岐図を探索ツールとして系統解析と taxon sampling が交互に拡張されていくという関係がおもしろかったとのこと(ありがとうございます).メトロの中での会話は一転して「学会のドンたち」のウラな話.いやあ,おもしろいっすねえ(“Arnold Kluge Society”噺とか“Steve Farris はいつリタイアするか”とか,もろもろ).David Hull 本(1988)の「舞台」では,いまも劇が上演され続けているということ.そのドンたちとはもうすぐバンケットで顔合わせですよ.

◇いったんホテルに帰る.夜8時からバンケットがある.このためだけに靴をもってきたので(今まではサンダル),シャワーして,着替えてシャツとネクタイと靴で再出発.セーヌの対岸にある歴史的建造物に指定されたリヨン駅構内のレストラン〈Le Train Blue〉にて.歩けばいいやと1.5kmほど(暑かった).ほぼ時刻通りにリヨン駅(Gare de Lyon)に到着.

―― 確かに建物に風格ありますなあ.バンケット会場はこの駅の2階にある.TGVホームを見下ろす体育館のように広くて天上の高い空間.それにしてもこの内装はいったい....19世紀から続いているというから,世紀末(fin de sìecle)的っていうの? いたるところ爛熟していました.

◇バンケットの始まり ―― といっても,いきなりワインを飲み始めることになる(あいさつも何もなくいきなり呑んで喰うというのは例年のこと).Hennig Society バンケット用のメニューが配られている(メニュー menu というのは「お品書き」ではなく「定食の内容」を意味することを知った).隣りの席は,今回の大会委員長である Philippe Grandcolas さんのご夫人である Laure Desutter さんだったので,出された料理はすべて説明してもらえる.微妙な点は向かい側にいる Deleporte さんからのコメント.ほほー,〈Foie gras de canard〉(鴨のフォワグラ):あらま,美味ですこと.トーストされたパンにはさんで食べる.白ワインの銘柄は〈Côte du Rhône Blanc “Viognier”〉.芳香が漂う.Deleporte 氏いわく「まだ若いな.葡萄の木にぶらさがっているようだ」と辛い評価点.コート・デュ・ローヌね.寿司にはシャンパンだというのがフランスでの共通意見なのだそうだ.

―― メインは〈Filet de canette au poivre vert〉(雛鴨のフィレ,生胡椒添え).グリンピースのピュレ(Purée de pois cassés)が付け合わせ.登場した赤ワインは〈Bordeaux “Château les pénéteaux”〉.フルボディーの重さはないが,ふうっとうまかったです.

◇でもって,「ドン」たちの横顔 ―― まずは Steve Farris 氏からでしょうね,当然.学会大会の「顔」そのもの.関心のある人は David Hull (1988) 『Science as a Process』に載っている Steve の写真と比較すべし.※おそらく横方向1.5倍のアフィン変換で一致させられるはず.

―― おお,この人も学会のもうひとつの「顔」か:Jim Carpenter 氏.例によって例の風体だった(TPOという言葉は彼の辞書にはない).カーペンター氏が話しかけているのは[Hubert Turner 氏の影に隠れる]Pablo Goloboff さん.横でビデオを撮りまくっているのは Kevin Nixon 会長(うーむ).トークも何もなく,どんどんと飲食が進んでいく.うん? もう10時を過ぎているじゃないか!(夜は長い[マジで])

―― Ward Wheeler 氏.Hennig Society バンケットでは毎年必ずスーツ着用.今年は夫人同伴だった.手前にいるのは Farris 夫人の Mari Källersjö さん.

―― 10時を過ぎてやっとバンケット・トーク(John Wenzel氏).そのあといくつかの演説があったけど,ほとんどの言葉は耳を素通りしていきました(呑み過ぎ).メイン・ディッシュのあとは定石どおりにチーズの〈Brie de Meaux〉がクルミパン〈Pain aux noix〉とともに出てきました.カットが大きいねえ.200グラムくらいあるんじゃないかな.フロマージュとしての熟成度合は食べごろ.向かいの席の Deleporte 氏は「履き古した靴下のような匂いがするチーズがいいなあ」と言っていましたが(ウォッシュタイプのチーズは出なかった).隣りの Desutter さんは「シェーヴルだったら〈Fromage de brebis(牝羊のチーズ)〉がいい」とのこと.

―― 映画〈スパイダーマン〉の主人公に這い上がる実物の蜘蛛は,Kirk Fitzhugh さんが提供したものだそうだ.本人の弁.

―― 最後にデザート〈Vacherin Train Blue〉と珈琲.このヴァシュランの「標高」は15センチほど.土台になっているマカロンを硬くしたような菓子は甘過ぎ.トッピングの生クリームと中に入っているアイスクリームだけでも十分なんじゃないですか.

◇日が変わる直前に,三々五々散っていく.中締めとか閉会とかそういう儀式はまったくなくエンドレスに続くのが Hennig Society のスタイル.さすがに生活リズムがもう大きく崩れているので,退散することに.

―― リヨン駅からセーヌを渡り,博物館横を通り過ぎてホテルにもどったら,もう日は変わっていました.

◇ぐー,轟沈でございますです.※今日はお疲れでした.>ぼく

◇本日の総歩数=1642歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※なんだこりゃ? 万歩計をリュックに入れておいたからか.


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