● 8月19日(土):殺風景なロサンゼルス空港の朝は高い朝食

◇明け方の3時過ぎまでごそごそしていた.4時間ほど寝て,のろのろと起き出す.外気温が急上昇しているようで,朝日が射し込む窓ガラスは熱膨張してぴしぴしと音がする.ここ Hotel Hilton LAX は,往路に泊まった Holiday Inn SFO に比べれば上出来で,設備も問題なく,チェックアウトすらない.実に機能的なホテルだ.フライトが午後なので,ついついのんびりしてしまう.昨夜摂取した大量のサラダが効いたのか,朝になっても食慾は湧かない.

◇何となくまたごろごろして気がついたら10時を過ぎていた.こりゃ,さすがにヤバいかもしれない.あわてて荷物をまとめて正面玄関でシャトルバスを待つものの,なかなか来ない.たまたま同じ場所でバス待ちしていた,エルサルバドル帰りの JICA の人は「1時間近く待っているのに来ませんねえ」と時計を気にしていた(同じフライトだという).11時前になってやっと来たバスに乗り込む.ぼくが乗る予定の〈JL 061〉便のフライトまですでに2時間を切っている.こんなことは今までなかったぞ.

◇LAX の Thom Bradley ターミナルで,チェックインの長蛇の列になだれ込もうとしたら,係員に「ダメダメ,まず荷物のセキュリティ・チェックを受けるように」と,別の長蛇の列を指差される.そうだ,ここはあのアメリカだったんだ.じりじりと行列に流されつつ,やっと儀式をすませて,今度は JAL チェックインの行列へ.先ほどの JICA の人はビジネス・クラスの窓口へスマートに(こ,この“経済格差”は何なんだよっ).すでに,正午をまわっていて,さすがにまずいぞと観念しかけたところに,「機内整備の遅れのために〈JL 061〉便は午後2時発に変更」とのアナウンスがあった.おお,救われた救われた.これでもう大丈夫だ.

 午後1時前にチェックインをすませて,ゲート105に向かう.よく考えたら朝飯を喰っていない.スタンドに寄って飲み物とサンドイッチを買ったら,ものすごく巨大なターキーのサンドイッチを渡された.この重さはただごとではない.表示を見たら「600 kcal」と書かれている! 値段は高くなかったが,このカロリー数はめっちゃ高い.こんなのを喰って,機内食も完食した日には,もう将来はないな,と思いつつ,サンドイッチを全部食べてしまった(おい……).

◇2時前にやっと搭乗開始.機内の CNN ニュースで,北朝鮮による拉致事件を描いた横田夫妻のドキュメンタリー映画〈Abduction〉がアメリカで話題を集めているとの報道があった.そんなんだよねえ,「アブダクション」といえば,まずは宇宙人による「誘拐」を意味するという受け取りが一般的だったけど,ここにきて北朝鮮による「拉致」もこの言葉で表されるようになると,推論様式としてのアブダクションは三番目の語義にランク落ちするのかなあ…….

◇機内では,ちゃらちゃらと映画を見たりせず,メシアンの伝記を読み,さらにフリーダ・カーロの伝記を読むという「清く正しい読書時間」を送った.機内食の喰い過ぎ(まったくもう……).

 メシアンは若くしてその将来を嘱望されていた音楽家で,まだ20代の頃(1930年代初頭)から作曲家としてもまたオルガン奏者としても傑出した才能を開花させはじめていたという.彼が作曲家 Paul Dukas の弟子筋であるとは知らなかった.

 フリーダ・カーロについては,メキシコ出身の画家という程度の断片的知識しかこれまでなかった.伝記を読むと,トロツキーやらイサム・ノグチやら国際的な人脈(異性関係)がとても華やかだったそうで,世評を集めることが多かったという.しかし,それ以上に,彼女の“病歴”は想像を越えている.これだけ physical にからだに病気やけがの影響が残っていれば,人生観や芸術にその“影”があるのも無理はない.というか,これだけの傷病経歴があればこそのフリーダか.

—— 機内の読書はエンドレス.


Another Oaxaca Journal「目次」