● 8月16日(水):中米先住民族の聖地では踊る大バンケット

◇午前5時半起床.いつも通り,午前7時に朝食へ.今日もよく晴れるようだ.初めて chocolate con leche(ミルク入りホット・チョコレート)を飲む.とてもうまいじゃないか.オアハカに来てからというもの,毎日「食の発見」があるぞ.※「知の発見」はどーしたっ.>ぼく(汗).

◇午前8時半から大会開始.今日は「動物の日」.Daniel Janies et al. が鳥インフルエンザの系統発生を Google Earth の上にツリーで描いていた(「Re-emergence of seasonal influenza viruses and comparative visualization of the geographic spread of influenza」).映画〈ウォー・ゲーム〉みたい〜.Collembola の刺毛配列を direct optimization によって系統解析するという発表もあり(M. Agolin et al.「Towards dynamic homology of morphological characters?」).1980年にダニの刺毛配列を幾何学的形態測定学で標準化するという論文があったが,その方向に絡めるといいのかもしれない.体節の個体発生的分岐図というアイデアはどのように使えばいいのかな.

◇今日は雲一つない快晴だ.昼頃になって,外が急に騒がしくなったと思ったら,大音量のシュプレヒコールが.反政府勢力による街頭デモだとのこと.外務省からの情報でもメキシコ,とくにオアハカ州の情勢が不穏であると発表されている.その現われだろう.Helga さんは,万一の乱入に備えて,会場への入り口をあわてて締め切っていた.

◇今日のランチにはタコスが出たのだが,いつものオアハカ風ちはちがって,上にふるふるするゼリーのようなものが乗っていた.サボテンの葉肉かな.街頭とはちがって,このホテルの中では,のんびりくつろぐ滞在客が多く,プールやテニスコートが賑わっていた.晴れて暖かな昼下がりのシエスタは幸せ.

◇街中をしばし徘徊 —— オアハカ地方にはさまざまな民芸品がある.州直営の民芸品店(MARO)がサント・ドミンゴ教会のすぐ南にあって立ち寄ってみた.タペストリーや織物,陶器,木工人形などなど鮮やかなものがたくさんある.近くの別の場所には MARO の研究所もあって,そこでも展示即売されている.いずれも展示スタイルそのものが見応えがあって,見物するだけでも十分に楽しい.オアハカの民芸品の中でも,自然染料(コチニールとか石絵具)で染めた織物は,風合いは化学染料に比べて地味だが,とても味わいがある.もちろん,日本的(あるいはアメリカ的)にはめちゃめちゃ高価な品物だし,オアハカ的には悶絶するほどの値段だ.

◇『オアハカ日誌』をオアハカで再読 —— 昼下がりにオリヴァー・サックスの『オアハカ日誌』を部屋のテラスで再読完了した.訳本の表紙にあしらわれている色鮮やかな布がオアハカの織物だ.オビには「読んでいるうちに一緒に旅をしているような気分になる」(池澤夏樹)と書かれているが,今回は「as if」ではなく,実際にこの本を旅の道連れとした.メキシコの車道のいたるところにある,速度抑制用の“こぶ”のことを“スピード・バンプ”(p. 78)ということも教えられた(スペイン語では何というのか).こんな一節もある:

同定し分類し系統だてたいというわたしたちの本能的な欲求について,スコットと話をする.スコットは,はじめに種を判断するのではなく,まず大きなカテゴリー —— 科 —— で見て,それから属や種に落ち着くそうだ.こういうふうに分類したくなる気持ちというのはどこまでが先天的なものなのだろうかと,ふたりで考える.(pp. 80-81)

Fork taxonomy 的にいえば,folk genus がまず先にあって,そこから下位に向かって folk species へと進み,他方,上位に向かって folk family へと階層化されていく.

◇午後6時45分から,大会会場となりのホールでバンケットが始まった.部屋の中央にとても大きな「舞台」がしつらえられていて,その背後に“オーケストラ”が配置されている.オーケストラといっても,編成は Cl 1+ Sax 1+ Trp 2+ Tenor Tuba 1+ Sousaphone 1+ SD 1+BD with cymbal 1 というバンドだ.いったい何だろうと思っていたら,いきなり音楽がガンガンはじまって,ショーの開始となった.隣りに座っていたメキシコ人の植物学者に訊いてみたところ,これはオアハカ地方の舞踊団によるショーだという.先月終わったはずの「ゲラゲッツァ祭」が月遅れで Hennig Society Meeting にやってきたようなものか.華やかな衣装の男女数人ずつのダンサーがペアになっていくつもの曲を踊る.ところどころで男女の“掛け合い漫才”のような場面があって,メキシコ人たちは大受けする(スペイン語なのでもちろん他国人は“外”だ).頭の上に巨大な帽子(あとで考えてみると,あれはメキシコ特有の“生命の樹”のモチーフであることがわかる)をかぶった男性ダンサーたちが,“マジャール”的なステップで跳ね回ったり.最後には女性ダンサーたちが客席に降りてきて,参加者を舞台上に誘い,みんなで踊る踊る.John Wenzel も踊る踊る.このノリはかなり“沖縄”的かもしれないと感じた.

 まるまる2時間のショーのあと,やっと Pablo Goloboff 会長のスピーチがちょこっとあったと思ったら,すかさず Jim Carpenter & Kevin Nixon & Dennis Stevenson の「ピン・ポン・パン」三人組による別の“掛け合い漫才”が始まった.演題は「“Cladistics of Cladists” 20 Years On : A Reanalysis」.初日に回収されたアンケートをもとにして,クラディストたちの分岐図をもう一回計算してみた結果が披露された.参加者回収数は「65」,アンケート項目数は「35」である.等長の最節約分岐図は全部で「16」あり(CI=0.65),その合意樹からいくつかの“クレード”があることが示された.ぼくは“Farriste”クレードの中の“PosterBoys”というサブクレードに入るらしい(何やそれっ).その後,Hennig Society の歴史を映画化するとしたらどういう「配役」になるかという話題に移った.参加者からは「どーして俺がブルース・ウィリスなんだっ」(Ward Wheeler)とかいろいろヤジが飛んだのだが,Steve Farris を演じるもっともふさわしい俳優は「ロバート・デ・ニーロ」だというのでまた大受け.〈ゴッド・ファーザー〉でも撮るつもりか,それとも〈ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ 〉?.

—— ノリノリなバンケットが終わったのは午後10時前だった.例年に比べれば意外に早く終わった気がする.今年のバンケットは,ひたすら飲み食いしたというよりは,ショーを観劇したという方がぴったりくる.

◇本日の総歩数=3959歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


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