科目:保全生態学特論(大学院集中講義)
場所:東京大学大学院農学生命科学研究科(文京区弥生)
農学部1号館地下講義室
期間:2005年6月9日,16日,23日(いずれも木曜日13:00〜17:00)
噺役:三中信宏(独立行政法人農業環境技術研究所)
Email: minaka@affrc.go.jp
URL: http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/ ※母屋サイト
URL: http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/ ※書評ブログ
TEL: 029-838-8224
FAX: 029-838-8199
【スケジュール】
●6月9日(木)[第5講義室]【シラバス】
この講義では、「系統推定に関する理論と方法をきちんと理解すること」を最大の目標とします。私が念頭に置く「系統推定」とは、過去の系統発生を現在のデータから復元することです。数理統計学が推定と検定のための明示的理論をもっているのとまったく同様に、系統学もまた系統推定に対する明示的理論を対内的・対外的に提示する必要があります。
第1日目の講義では、生物系統学における推論様式と仮説検定のあり方について述べ、未知パラメータ(系統樹の樹形や祖先形質状態など)の設定とその推定方法(最節約法・最尤法・距離法)について鳥瞰的に説明します。パソコンを用いたデモでは、PAUP* と MacClade を用いて、入力データ行列の作成にはじまり最適系統樹を探索するまでの一連の手順を説明します。
第2日目の講義では、系統樹のグラフとしての特性をふまえた定量的診断を説明します。推定された系統樹が元のデータとどれくらい整合的であるのかを数値化するいくつかの尺度(一致指数・保持指数・修正一致指数など)を導入し、その意味と解釈を説明します。さらに、得られた系統樹のもとで形質の進化をどのように復元されるかをPAUP*とMacCladeを連携させることによりデモします。
第3日目の講義は、統計学概論からスタートします。形質データから推定された系統樹は「推定値」ですから、その信頼性や誤差をきちんと評価しなければ何の価値もありません。そのために、さまざまな統計学の手法が系統学を「場」として開発され利用されています。系統学に適用されているさまざまな統計学的手法を概観した上で、実際にブーツストラップ法・ジャックナイフ法・無作為化法を中心に、系統樹とデータの双方の信頼性評価法を説明します。さらに、系統樹の推論原理としての尤度を導入し、その意義を説明します。この日にかぎり、PAUP*/MacCladeだけでなく、統計言語「R」を用いたデモも併せて行ないます。最後に、系統樹を推定する意味について今一度考えてみることで全体を締めくくる予定です。
この講義の基本骨格は、1997年に出版した三中信宏『生物系統学』(1997年第1刷/2004年第3刷,東京大学出版会,ISBN:4-13-060172-5)に準じています。ご用意いただければ、生物体系学全般が概観できる参考書として役に立つでしょう。また,英語の参考書としては,J. Felsenstein『Inferring Phylogenies』(2004年,Sinauer Associates, ISBN:0-87893-177-5)が系統推定の統計学的側面に関して詳しく書かれています.さらに,C. Semple & M. Steel『Phylogenetics』(2003年,Oxford University Press,ISBN:0-19-850942-1)は,系統樹に関する離散数学的な内容が解説されています.さらに広範な文献リストについては,私の作成した〈生物体系学に関する教科書および参考書リスト(分類リンク版)〉をごらん下さい.
今回の講義に付随するデモでは、Macintosh版の PAUP* と MacClade ならびに他のMacintosh / Windows版の系統推定プログラムのいくつかをプロジェクターで映写しながら説明します。なお,講義と並行して,受講生からなるメーリングリストを開設するとともに,WWWサイトからの情報提供を行なう予定です.これらは,講義に関する質問と回答,追加情報の公開,ならびにレポートの提出などに利用します.