「生物系統学」に関する非常勤講義のスケジュール
科目:保全生態学特論(大学院集中講義)
場所:東京大学大学院農学生命科学研究科(文京区弥生)
農学部1号館地下〈生圏システム学専攻・会議室〉
期間:2003年5月15日,22日,29日,6月5日(いずれも木曜日13:00〜17:00)
噺役:三中信宏(独立行政法人農業環境技術研究所)
Email: minaka@affrc.go.jp
TEL: 029-838-8224
FAX: 029-838-8199
【スケジュール】
●5月15日(木)
第1席:「歴史」としての系統樹――その定義とパラメータ推定
13:00 - 14:10 【講義】生物系統学における推論様式:
歴史パラメータとしての樹形・枝長・祖先形質状態
14:30 - 15:40 【講義】系統樹の推定法とそのパフォーマンス比較:
最節約法・最尤法・距離法の概論
16:00 - 17:00 【デモ】PAUP* と MacClade を用いた系統推定の実践:
塩基配列データを例として
●5月22日(木)
第2席:「グラフ」としての系統樹――診断・トレース・チャート
13:00 - 14:10 【講義】系統樹の数値診断:
一致指数・保持指数・修正一致指数など
14:30 - 15:40 【講義】系統樹における祖先復元:
トレースとチャート,ACCTRAN/DELTRAN,歪みなど
16:00 - 17:00 【デモ】PAUP* による数値診断/MacClade による祖先復元
●5月29日(木)
第3席:「推定値」としての系統樹――「鵜」から脱皮するために
13:00 - 14:10 【講義】ツールとしての統計学(概論):
parametric法・nonparametric法・尤度原理・情報量基準
14:30 - 15:40 【講義/デモ】系統樹の統計学的信頼性:
ブーツストラップ・ジャックナイフ・サポート検定
16:00 - 17:00 【講義/デモ】形質データの情報量評価法:
樹長分布・PTP検定・DD検定
●6月5日(木)
第4席:系統学の今日的問題あれこれ,ならびに総括
13:00 - 14:10 【講義/デモ】巨大系統樹問題――大きいことはいいことか?:
※データが増えたときの傾向と対策(PAUP*の場合)
14:30 - 15:40 【講義/デモ】形質の重みづけ――やるべきかやらざるべきか?:
※「重みづけ派」としての弁明とシミュレーション
16:00 - 17:00 【講義】総括――なぜわれわれは系統を知らねばならないのか?
【シラバス】
この講義では、「系統推定に関する理論と方法をきちんと理解すること」を最大の目標とします。私が念頭に置く「系統推定」とは、過去の系統発生を現在のデータから復元することです。数理統計学が推定と検定のための明示的理論をもっているのとまったく同様に、系統学もまた系統推定に対する明示的理論を対内的・対外的に提示する必要があります。
第1日目の講義では、生物系統学における推論様式と仮説検定のあり方について述べ、未知パラメータ(系統樹の樹形や祖先形質状態など)の設定とその推定方法(最節約法・最尤法・距離法)について鳥瞰的に説明します。パソコンを用いたデモでは、PAUP* と MacClade を用いて、入力データ行列の作成にはじまり最適系統樹を探索するまでの一連の手順を説明します。
第2日目の講義では、系統樹のグラフとしての特性をふまえた定量的診断を説明します。推定された系統樹が元のデータとどれくらい整合的であるのかを数値化するいくつかの尺度(一致指数・保持指数・修正一致指数など)を導入し、その意味と解釈を説明します。さらに、得られた系統樹のもとで形質の進化をどのように復元されるかをPAUP*とMacCladeを連携させることによりデモします。
第3日目の講義は、統計学概論からスタートします。形質データから推定された系統樹は「推定値」ですから、その信頼性や誤差をきちんと評価しなければ何の価値もありません。そのために、さまざまな統計学の手法が系統学を「場」として開発され利用されています。系統学に適用されているさまざまな統計学的手法を概観した上で、実際にブーツストラップ法・ジャックナイフ法・無作為化法を中心に、系統樹とデータの双方の信頼性評価法を説明します。さらに、系統樹の推論原理としての尤度を導入し、その意義を説明します。この日にかぎり、PAUP*/MacCladeだけでなく、統計言語「R」を用いたデモも併せて行ないます。
第4日目の午前の講義は、系統推定の今日的問題のいくつかを論じます。ひとつは「大系統(large phylogeny)問題」で、形質データのサイズが単調に巨大化していく現状で浮上してきた問題です。もう一つは、「形質重みづけ(character weighting)問題」で、こちらは論争がいっこうにおさまる兆しがありません。最後に、系統樹を推定する意味について今一度考えてみることで全体を締めくくる予定です。
この講義の基本骨格は、1997年に出版した三中信宏『生物系統学』(東京大学出版会)に準じています。ご用意いただければ、参考書として役に立つでしょう。今回の講義に付随するデモでは、Macintosh版の PAUP* と MacClade ならびにWindows版の系統推定プログラムのいくつかをプロジェクターで映写しながら説明します。なお,講義と並行して,受講生からなるメーリングリストを開設するとともに,WWWサイトからの情報提供を行ないます.これらは,講義に関する質問と回答,追加情報の公開,ならびにレポートの提出などに利用します.